しゃべり場

「にじみ」ができるまで。そしてこれから。

プロフィール

伊東 優
伊東(株)および(株)亀崎Kamos代表。(株)NTTドコモにて東京や愛知県内で約11年勤務。中部地区の酒蔵で蔵人を経験後、実家の酒造りを復活させ、敷地を複合施設「伊東合資」として開く。

湯川 修平
(株)ゆの字代表・一級建築士。エイトデザイングループにてカフェ・家具・雑貨事業会社の代表を経て、地域や組織の物語作りに携わる。現在、伊東合資に伴走。

「Sake Cafe にじみ」ができるまで

── 酒蔵の敷地を再活用するうえで「自分たちでカフェを作ろう」と思ったきっかけや、経緯を教えてください。

湯川:伊東さんは知多半島の「食」を伝えたい、っていう思いがはじめからありましたよね。

伊東:そう、「知多半島は食がすごいんだぞ」っていうのを知ってほしいのが根底にあるんです。それを1人が言うよりも「県民性」みたいな感じで、みんながそう思って、みんなが発信すれば広まるし、文化になるんじゃないかなと思って。

湯川:伊東さんも常に言ってますけど、敷嶋というお酒は江戸時代から超富裕層向けのものじゃなく、地元や江戸の庶民が食事と一緒に楽しんでいたもの。時代を通してそのDNAみたいなのが伊東さんの中には多分あるんですよね。だから一般の人向けの店を作りたいんだな、って感じました。

伊東:コンセプトを考えたとき、敷嶋はごはんに合いやすい「食中酒」なので、ペアリングっていうのは、すんなり決まりました。「味が口のなかでにじむ」っていう湯川さんの発案やネーミングの提案もあって。

── それで店名が「にじみ」なんですね。

ブレと葛藤、せめぎ合いで紆余曲折!

伊東:でもそのあと、やりたいこととターゲット、実際やれるかどうか、成功するかどうかなど、その辺の落としどころに紆余曲折しました。

湯川:いま飲食業界ってムズイんですよ。原価や人件費がすごく上がってて。となると、どれだけ単価を高くするかという話になりがちで。ある程度お金を持ってる人たちをターゲットにせざるを得ない構造になっちゃってるんです。

── 最近、特に感じますね。

湯川:その中でも伊東さんは「いや、でもそれはわかるけれども、やっぱり敷嶋は極力、一般の人たちに届けたい」っていう想いがあって。メニューの金額設定や営業時間の設定などにジレンマがありましたよね。

伊東:そうですね。それで「結局何がやりたいのって?」いうところが、まあまあブレちゃって。

── というと?

伊東:例えば夜に営業するかどうか。僕は「広く文化を作りたい」という気持ちで動いてるので、敷嶋や知多半島の食をいろんな人に知ってほしいし、僕は飲み歩きや食べ歩きが大好きだから「いろんな人に来てほしい」という思いがすごく強い。ここは酒蔵だから、やっぱり夜、お酒を飲んでほしい想いがあるんです。

── なるほど。

伊東:そのうえで、ネーミングは「カフェ」なのか「バー」なのか「レストラン」なのか。それによってだいぶ印象が変わってきますよね。メニューはアラカルトもコースも両方あって、夜の食事を楽しんでもらえるといいな、とか。ただし、それをやれる人的リソース、ターゲット、市場……現実はまあまあしんどいんよなという思いで揺れたりしながら、でも夜営業やりたいから、最初やってました。

── そうだったんですね。

伊東:この亀崎という町に夜どんだけ人が来るかっていうのは確かに最初から懸念事項ではあったんです。

── それでオープン後は、夜営業の形態を少しずつ調整してるんですね。

伊東:ちなみに湯川さんは最初から夜営業反対派。

「理屈じゃない」から個性が生まれる

湯川:すんません。でもこういうスタートの仕方もけっこう大事だと思ってて。なぜかっていうと、「理屈じゃない」っていう部分もすごく大事じゃないですか。理屈通りに、教科書通りに…例えば「○○の戦略通りにやりました」みたいに営業したら、個性的なものって生まれるわけがないし。周囲にいる人間もたぶん、どこか伊東さんのDNA的な、血みたいなところから発せられるその「理屈じゃない部分」っていうのをブチ込まれることを、当然のように期待してるし。

── わかります。

湯川:だからこそ着地点が普通のプロジェクトよりも難解なものになったんじゃないかと思ってます。「理屈通りにやってもね」っていうところは、他の関係者もきっとわかってる。でも「理屈も大事だよね」っていう、そのせめぎ合いがあったんじゃないかなと思います。

── 悩ましすぎます!

伊東家のDNAと潮干祭への想い

湯川:あと、近い場所で伊東さんを見てて思うのは、伊東さんの中でこの建物っていう資源は、伊東合資のものでもあるけど、その傍ら「この地域の資源」とも見てるわけですよ。「この会社の資源であり、地域の資源でもある」と。だから葛藤みたいなものが生まれるんですよね。それも伊東家に伝わるDNAかと思うんです、おそらく。

伊東:商売よりも地域のために、と思うのは潮干祭の影響も大きいです。亀崎の人から「この建物を壊さないで」「無くさないでずっと維持してほしい」よく言われるんですよ。とはいえ莫大な改修費や維持費が必要なので、だったら資金を一緒に考えてほしい、という話でもあるんですけど(笑)。

── これもジレンマですね!

伊東:でも確かに潮干祭だけを考えると、尾張三社に山車が5輌揃う時、もしうちの建物がなかったら……例えば分譲住宅で雑多な背景になってしまったら、なんかちょっと味気ないよね、ってやっぱり思うんですよね。

── ああ、まさに。

伊東:だから亀崎の人の声を聞いてるうちに、そういう思考になりやすい気もします。

人口減少のなか築きたいミライは…

湯川:それもあってカフェという形態をとってるんですよね。

伊東:そう。この地域はとても優れているものの、外需でPRや売ってるわけじゃなく、内需だけでも今まで成り立ってきた地域。でも今後、人口が減っていく社会において内需だけで賄えるということは絶対なくて。そうなると生産者さんが減っていって、文化が1個1個途絶えていくと思うんですね。

湯川:それってすごくもったいない。

伊東:そうだとしたら知多半島にとっての外貨……名古屋や他の地域から人が来るような「食」いうものを目指して、そういった雰囲気・文化を少しずつ作っていって、その結果、その職業の担い手さんの仕事が続き、この地域も維持され、持続していくっていう未来を築きたいなと思ったんです。

── 地域のミライを支えるためなんですね。

伊東:だからカフェっていう、広くあまねく人が来るような形態にしたんです。

湯川:いわゆる「文化」や「地のもの」のなかで、セルフプロデュースが下手なものって、どんどん斜陽になっていますよね。だからそれをプロデュースする芸能事務所みたいなものも必要だと思うんです。この複合施設「伊東合資」は、知多半島のあらゆるもの芸能事務所的な側面も担っていくんじゃないかなっていう気はするんですよね。

── たしかに。

湯川:その中に、大人も子どもも含めてみんなに伝わりやすい「カフェ」という形が必要だということは、伊東さんの脳みその大きい部分に絶対あったと思うんです。一部の高所得者向けのものは、儲かるかもしんないけど、それじゃあ意味ねーなって。

日本酒は楽しみ方がいっぱいある!

── 伊東さん、これから「にじみ」でやりたいことは?

伊東:そうですね、今はまず軌道にのせたいです。安定したら、カジュアルに日本酒の魅力を伝える仕掛けを少しずつやっていきたいですね。まだ「おしゃれ」とか「ペアリング」っていう最初の段階の表現しかしてないので。にじみは「日本酒の沼への入口」にもなったらいいなと思ってるんです。

── 沼!?

伊東:例えば「日本酒って奥が深いんだ」って感じたお客さんが、「Restaurant gnaw」にも足を運ぶとか、そういうきっかけになればいいなと思ってます。

── 美味しくて楽しい沼ですね(笑)

伊東:そうなんです。それで「日本酒は楽しみ方がいっぱいあるんだよ」って他の人に話せるような人を1人でも多く作るのが最終目標かなと思います。

湯川:そのために必要なことを、徐々にやっていければ、と。

伊東:でもそこが全然まだ足りてなくて。例えば、スタッフがどこまで何を伝えられるのか? 伝えられないなら、代わりにどういう仕掛けを用意するのか? そういった企画やイベントみたいなことをやっていくのか? いろんな切り口があると思うんですけど、そこは忘れずにやっていきたいなあ、と思ってます。

湯川:知多半島の食や日本酒の魅力を、カジュアルに楽しく伝えられるスタッフさんや、そういった企画を一緒に考える人が、今後集まってくれるといいですよね。

── これからの「にじみ」が、お客さんや地域とどうにじみ合っていくのか、楽しみです!

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