しゃべり場

今日も知多半島の畑へ、海へ、牧場へ

「知多半島」の食材と「つながり」の食材で

── 以前のお店「Re Chimique」の時から、知多半島の食材や生産者さんをとても大切にしていると思うんですが、どのような気持ちで料理されているんですか?

水野:お客さんがわざわざ知多半島に来てくれたら、知多半島のものでおもてなししたいっていう気持ちがあって。

── 海外のお客様も多いんですよね。

水野:そうですね。

── こんなお店だよ、って人に伝えるとき言葉に迷うんですが、地産地消とか発酵などがキーワードでしょうか?

水野:まず僕はそもそも料理人じゃないと思ってるんですよ。パティシエ出身だけど、そういう概念すらも今はなくて。「地産地消」のレストランと言われることもありますが、今ファッショナブルに語られることもある地産地消というスタイルをやりたいわけでもなくて。

── 詳しく聞きたいです。

水野:基本は「そこにあるものだけでやろう」というスタンスなんです。「こんなんも欲しいな、あんなんも欲しいな」という気持ちもあるけれど。

── 「そこ」というのは地元の知多半島?

水野:知多半島メインに「知り合いのものだけやろう」って思ってます。例えば、みりんは角谷さん(角谷文治郎商店)のを愛用してますが、碧南市で作ってるので「知多半島」のものではないから、「地元」って言っていいのかなあ、とか曖昧で。

── そう言われれば、「地元」「地産地消」の範囲って表現しにくいですね。

水野:それもあって自分では「地産地消」とは言ってなくて。あと「発酵専門店」と周りが言うこともあるけれど、自分では言ってないんです。和食屋さんはみんな発酵の店ですし。そんなんじゃなくて「知人ものもだけでやろう」なんです。

── でも発酵させてるものが多い理由は?

水野:自分たちで育てたもの、穫ったものって、とても無駄にするなんてできなくて、保存のために発酵や熟成させているんです。お魚なんかも骨まで余すところなく使いたいし、お肉は使いにくい部位も、発酵の力で美味しくしてみよう、とか。野菜は、旬の時期は穫れすぎるし、端境期だと無いですし。

── 無いときは取り寄せたくなりませんか。

水野:僕はフランスにいた時間が長くて、あとチェコ、オーストリア、デンマークにも行ったんですけど、ヨーロッパだと、国境を超えてモノが取りに行けないんですよ。フランスの中でもボルドーとブルゴーニュは、それぞれの地域のものだけを使ってるんです。「あっちのアレを使えばもっといいのに」って思うけど、彼らは使い方も知らないし術もない。

── 別に比べてるってわけじゃなく、その場にあるものでやるっていうのがヨーロッパの人たちなんですね。

水野:僕もそういう感覚でやってるんです。

畑、牧場、漁港へ通う毎日

── いろんな生産者さんと、どうやって知り合ったんですか。

水野:基本的にはお客さんとして来てくださった方が多いですね。小栗さん(小栗牧場)は知り合いからの紹介で繋がりました。

── 「いいお肉を作る人、知りませんか」と探して?

水野:いいお肉っていうよりも、仲よくなれる人。もともと飛騨牛や松坂牛を使っていたんですけど、ちょっと遠いし無理が生じるし。ビジネスの部分が見えてたけど見てないフリをしていた部分もあって。ブランド名や育成期間などのスペックにこだわるより、「ムリをしない」ということを大事にしたいな、と。

── いい関係性のなかで、やっていきたいということですね。

水野:はい。

── そのあと畑や海、牧場へ通いはじめたんですか?

水野:もともと生き物とか好きで、特に釣りがすごい好きだったんで。いま週7日のうち、1〜2日は小栗さんの牧場(小栗牧場)へ行って牛たちの世話をし、週1は野田さんという一本釣り漁師さんの手伝いをしています。一緒に船へ乗せてもらって漁をしたり、片付けとか魚屋さんを手伝ったりとか。それと、杉山さん(とるたべる)の畑へ行ったり。自分の畑をしたり。

── 自分の畑もやってるんですね。

水野:もともと母方が農家なんですよ。なので畑を何個か持ってて。僕の畑も常滑にあって大豆とか育ててます。

力強さが違う野菜

── 水野さんが使う野菜は、なんであんなに美味しいんですか?

水野:僕たちは土を耕さない「不耕起栽培」というのをやってるんですが、それで育つ野菜は力強さが違うんです。たとえば人参。畑から人参を抜くとき、周りの土ごとごっそり抜いて、土ごと火にかけてローストして出すと、すごく味が濃くて美味しい。でもスーパーなどで売ってるような人参で同じようにすると味がなくなちゃうんです。

── そうそう、愛知の伝統野菜も使ってますよね。

水野:畑をやって5〜6年目になるんですけど、そういった野菜の「種取り」もしていて。そのなかでも、人の手を介さない「自然農法」での種取り……つまり種が土に落ちたものをそのまま待つだけ、ということをしているんです。雑草をかぶせて湿度だけ保ってあげる。すると種は、そこの土の生き方を知って育つんです。
(*種取り:流通している多くの野菜は、育てやすさや見た目の良さなどのため品種改良された種や苗から育つ。種取りした野菜は、その野菜らしい味のあるものが多い)

── 土地の風土に馴染んだ野菜になるそうですね。

水野:僕らは南知多町の山海(やまみ)っていう、山に海って書く地域でやってるんですけど、そこは海が隆起してできた土地。だからミネラル分のナトリウム系が多いんですよ。アミノ酸比率も高くて、根菜がすごく力強く育ちやすいんです。

── ちなみに自然農法って、雑草は本当に抜かなくても大丈夫なんですか?

水野:全部が全部じゃないですけど、残すものはしっかり残してます。栄養過多にならないかとか、乾燥しないようにとか、出てくる虫の種類とかを考えながら。虫は害虫もいれば益虫もいるので。例えばテントウムシが出てくると土の状態はすごくいいんです。

── 「Restaurant gnaw」になってから、1つひとつの食材を主役として表現されてますが、野菜の主役感が際立っているのも納得です。

お肉への実験、挑戦

── いま扱ってる牛肉は小栗牧場さんだけですか。

水野:そうですね。牧場には一緒にかわいがってる牛達がいっぱいいて。受精から屠殺まで36ヶ月。だいたい友達として仲良くやってて。「自分が買う」って決めてるから、牛に敷嶋の酒粕を与えたり醤油粕を与えて育ててるんです。

── すごく濃い関係性ですね。

水野:小栗さんって、どうやったらいい状態で育つか実験をさせてくれるんですよ。だからめちゃくちゃ仲良くて。僕らが週に2回牧場へ行くだけじゃなくて、終わってから一緒にメシ行ったりとか。牧場は10時に見回りがあるんですけど、それを一緒にやったり。あと、お肉の味を確かめるため、よく来店してくれるんです。昨日も来てくれて。

── 豚肉はどんな方のものですか?

水野:ピッグファーム喜蔵の加藤昴くん。肉質がいいデュロック種を、餌や肥育期間も高いレベルでこだわって育ててるんです。チャレンジングな精肉店「平山ショップ」と一緒に、いろんなトップシェフの意見を聞きながら「知多ルビーポーク(知多豚)」を作り上げることに取り組んでる。僕より年下で、すごいいい子で。

── 若いのに難しそうな挑戦をしてるし、何より美味しさが格別。応援したくなります!

自然体でワクワクするままに

── 生きること食べること。そして食べ物を1から作ることも料理も。全部が好きなんですね。

水野:それ、かっこよく言っちゃってる感じがしますけど、普通の暮らしの中で、めちゃくちゃ自然体でいるだけなんです。「今日、牧場行こうかなあ〜」「そういえば今日コレが来るから牧場行こうかな〜あ」とか。天気を見て「この天気だったら漁師さんが海へ出るから、帰ってきたときの網回収や、魚の回収、箱の片付け、大変だし手伝おうかなあ〜」とか。そうすると野田さんが沖のキレイな海水を汲んできてくれたりするから、それでいろんな塩を手作りしてみたり。

── 野田さんや小栗さんは、そんな水野さんに一番いい食材を分けたくなるんじゃないですか?

水野:一応みんなには「売れるものは他の人に売ってほしい」って伝えてます。小栗さんとこの和牛も、サーロインやロースとかヒレとかは、欲しい人いっぱいいるし。名古屋の有名レストランさんとか、いい部位で勝負したい人はいっぱいいるし。ストーリーが欲しいシェフや有名シェフが買ってくれることは、小栗さんが1,000頭を飼っていく上で必要な部分でもあるので大事です。

── なるほど。

水野:だから僕は、彼らが買わない部位とか、買い残した部位を基本的に使うようにしてて。これまでなら絶対使わない筋ばった部位があれば、塩漬けてして米麹入れてガルムみたいなものを作ろう、とか、この部位だったらステーキにしても大丈夫かな、とか試しながら新しい美味しさを追求してるんです。

※ガルム:古代ローマで魚の内臓を発酵させた魚醤の一種

ありのままの知多半島を

水野:29で独立して30歳ぐらいまで「カッコいいレストランにしたい。やるぞやるぞ!」って意気込んでたんですけど、次第にそれがダサいと思うようになったんです。いまは有名店になりたいとか、「ミシュランガイドや「ゴ・エ・ミヨ」に載りたいとか1mmもなくて。「自分のフォーム(ホーム?)を崩す」みたいなのがあんまり好きじゃないので。

── 気持ちいい人間関係、近い人間関係の中で、無理せず回していきたいな、と?

水野:はい。だから、食材が無いなら無いでしょうがない。こういう悪天候が続くと漁師さんは海に出られない。そうするとうちの23品コースのなかに魚は出ない。そんな、ありのままの知多半島を、感じてもらえたらと思います。

── それもきっと最近、水野さんが言っている「Km0(キロメートル・ゼロ)」なんですね。

水野:キロメートル・ゼロは、イタリアから生まれた運動で、作り手と最短距離で結ばれていること、などを指す言葉。いま僕らはガスを使わず、薪と備長炭で調理しているんですけど、その木材は知多半島産。熱源もキロメートル・ゼロにしたくて(笑)。

── そんなレストラン、聞いたこともなかったです!

〜インタビューを終えて〜

自分にも環境にも人間関係にも無理のないスタンスを作り上げてきた水野さん。

調理中いつも楽しそうな様子や、話をしている時の好奇心いっぱいな目、わくわくする探究心を全身で満たしているだろう日々。
「知多半島を、生きている」……そんなあり方が印象に残りました。

そんな水野シェフだからこそ、1皿ごとに食材の力や、調理法の面白さ、組み合わせの新鮮さに驚きと感動が止まらないのかもしれません。 その日の食材だけでその日だけの美味しさを表現する、ライブ感あふれる「Restaurant gnaw」。日々変化するメニューをかじりに、ぜひ!