しゃべり場

伊東合資として伝えたい「食」のこと

「この人だ」と思えたのは…

── 水野シェフとの出会いのきっかけや、誘いたいと思った点はどんなところでしたか?

湯川:伊東さんって、すごくたくさんのお店に行って、いろんなシェフに会ってるんですよね。

伊東:そうですね。東京で働いていたときはミシュラン掲載店を巡ったり、愛知に戻ってからは、名古屋の美味しいお店とかたくさん行きました。それで、前に水野シェフがやってたお店「Re Chimique」に普通に客として行ったら、とても良くて。お酒をどんどん出してくれるスタイルだったのでまあまあ酔っ払ってたんですけど、初回でもう結構話したんです。

── 「僕はこんなことやってるんですけど」とか?

伊東:はい。後日一緒に飲みに行ったんですけど、そのときも「目線が普通の料理人と若干違うな」って印象があって。なんだろう、平面じゃなくて立体で捉えてるっていうか。

── 立体ってどんな感じでしょうか。

伊東:料理っていうものをどう捉えるかの目線っていうか。奥行きの広さって言ってた方がいいんですかね。美味しいものを作るのがゴールじゃなくて、そこはあくまで通過点で「その先に何を伝えるか」っていうところをやってる人だな、と。いま言語化すると、多分そういうことを僕は感じたんだと思います。

── 「その先」というのは…

伊東:gnawになってから特に感じるのは「ストーリー」を伝えているお店だなって。美味しい料理を使って何を伝えるかっていうところを感じられるコースだと思ったんです。水野さんは、今まさにそれを行動に移している。当時はその原石みたいなものを感じたんです。わかりやすく言うと「地域を伝える」っていうところ。

── もう衝動的に思ったんですね。

伊東:で、蔵とか見てもらって。移転の準備や蔵の改修をし、当初2024年の夏には移転予定でしたが、いろいろあってその年の12月に「Restaurant gnaw」としてオープン。その頃から水野さんが自分たちの店を「伊東合資の迎賓館」って言い始めて、すごいありがたいなと思ってます。水野さんはいつもワードセンスもすごく強い。

湯川:よくクリエイティブなことって「見る人の想像力を借りる」ことをするじゃないですか。水野シェフは「食べる人の想像力」みたいなものを借りるのもうまいと思います。料理って、食べたときに自動的に何か想像するじゃないですか。「食材にはどういうものが背景にあって、料理する人たちがどう味変して……」みたいな。

── あ、あります。

湯川:「gnaw」の料理は、別に水野さんたちが語らなくても、何かこっちが勝手に想像してしまうとか、そうさせる力みたいなものがあるな、って思いますね。

── 食材や料理のちょっとした説明はあるけど、そっから先は確かに、「え、なに? なんでこんなにおいしいの!? 素材が力強いから? 生産者さんの愛がこもってるから? シェフ独自の調理法だから?」って想像がふくらみます。

湯川:食材を一番ブランディングできるのって料理人ですからね。よく○○コンサルタントとかいう一部の怪しい人たちではなく、この食材をこういう表現をしてこうやって伝えたらみたいな、そういう卑しい表面的なブランディングでもなく。

── なるほど。

湯川:木を一番ブランディングできるのが大工さんであるのと同じように、料理人は食材を一番ブランディングできる。それをやる人もいればやらない人もいますけど。水野さんにはそういうところもあるのかなって感じます。

── 年間を通して毎日いろんな食材を手にしているから、今日の知多半島ではこれが一番いい、今日の知多半島にあるものはこの調理法で美味しくなる、っていうのがわかってるからでしょうか。

湯川:食べるとそれが体感としてわかるから、説得力ありますよね。

伊東:僕が実現したい「知多半島を伝える」というところができる人だと思ったから誘ったし、なんなら、もう何かその前に「やりたい」と言ってたし。

── 水野シェフ夫妻は、もともとペアリングをコースに組み入れたり、この地域の伝統である発酵・醸造を取り入れている点でも、伊東合資にこれ以上ないふさわしさだと感じました。お話ありがとうございます!

水野シェフのインタビュー記事もご覧ください。